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人工知能は人類を滅ぼすのか!?2015年02月04日 01時09分45秒

 昨年末、イギリスの物理学者スティーヴン・ホーキングが、人工知能(AI)が人類を滅ぼす可能性があると発言し話題になった。これに対して、米マイクロソフトの研究部門のトップは、そんなことはないと反論。さらに、それに対して、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツが、AIはやはり危険だと再反論している。

 コンピュータサイエンスの世界で、俄にAI論議が盛り上がっている。
 はたしてAIは、人類を滅ぼすのか、それとも人類を労働から解放し、より快適な社会を作り出すのか。

 AIは日本語で人工知能と呼ばれるとおり、知能を仮想的に作り出したものを言う。どこに? それはコンピュータ上である。ネットワーク上といってもいいかもしれない。

 コンピュータがここ数十年に間に素晴らしい進化を遂げ、計算速度が10数年前のスパコンを抜くまでになっている(ここアバウト)。
 ただ、CPUの性能は、Core i シリーズが登場してからは頭打ちである。そのため、コア数を増やしたり、配線間隔を縮めたりしているのだが、そろそろ配線から量子効果で電子がこぼれ落ちそうなところまで微細化されている。
 この隘路を打開するには、量子コンピュータの実用化を待つしかないのだが、現在のところ、カナダのD-Waveしかなく、これも量子コンピュータというにはほど遠いというのが実態である。
 ちなみに、量子コンピュータが実現すると、現在のパソコンの10億倍から100億倍も速い計算ができるとされている。(数字はアバウト)。
 
 で、今はどうかというと、CPUの性能向上が頭打ちなので、光ファイバーで高速化されたネット及び大容量ストレージによって大量の情報をやりとりすることで処理能力というか処理件数を増やしている。
 こういうのが、昨今話題のビッグデータであり、これを高速で解析することで有意な情報が得られるというわけだ。

 ビッグデータ解析が、AIをより実用性のあるものに近づけている。具体的な事例が、グーグルなどの検索システムであり、ATOKなどの日本語インプットメソッドの仮名漢字変換システムだ。
 機械翻訳も、自動通訳もスマートホンでかなり実用的にできるようになったが、これも、ユーザが使用する大量のデータを収集して、その文脈の中で使われる確率の高いものから順番に表示していくことで実現している。

 AIとは、つまり、人間の思考を代行してくれるものであるだけでなく、人間の思考を補強・拡大してくれるものなのである。
 この部分。人間の能力を超えた部分が議論の的なのである。

 株式市場では、コンピュータを駆使した高速取引が行われている。ミリ秒、マイクロ秒、さらにはナノ秒という世界で株の売買を行う。このような高速取引には、人間は絶対にかなわない。このあたりの話は、『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(文藝春秋)に詳しく書かれている。

 こういうのが、今実感されるAIである。どこかで、人間はコンピュータに勝てなくなるのである。脳の機能は有限であるから。
 さらに将来(あと30年はかかるが)、量子コンピュータが実現したら、ほとんどの分野で人間は、コンピュータが作り出す事象についていけなくなるだろう。

 と、悲観的になりがちだが、心配しなくていい。ぼくは楽観的な立場をとる。
 人間にできてAIにできないこと。それは、創造であり想像である。芸術作品を模倣することはできても、人間のエモーショナルな部分は絶対に模倣できないだろう。
 AIは、フェルメールの「青いターバンの少女」を、寸分違わず模倣できるかもしれないが、人間は模倣と実物の違いをすぐに見分けることができるだろう。

 しかしだ。芸術は、一般的に利益を生まない。利益を生むのは、利便性であり効率性である。そういう意味では、AIは凄まじい勢いで世の中を席巻していくだろう。

 人間ができることはなにか。それは心変わりだ。人間は気分に左右されやすい。これは論理を超越している。
 非論理的・感情的・感傷的に生きること。これが、きたるべきAI時代に対する、ささやかな抵抗方法かもしれない。