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自分が何を欲しいのかは自分ではわからない2011年11月02日 12時35分15秒

WIREDにこんな記事(「How Friends Ruin Memory: The Social Conformity Effect」 Jonah Lehrer、October 18、2011 2:48 pm)が掲載された。 
 日本語版WIREDの翻訳記事のタイトルは『「社会への同調」で生まれる「ニセの記憶」』。

 米「Science」に掲載された論文によると、事実に関する記憶は、その後の社会的同調行為によって変化することが確認されたのだそうだ。神経学者のMicah Edelson,、Tali Sharot,、Raymond Dolan、Yadin Dudaiらは、5人ずつのグループに分けた被験者に、短いドキュメンタリー映像を見せて、3日後に記憶テストをし、その4日後にさらに脳のスキャナ検査をして、そのときに、グループの他の人の答えたものを見せたところ、その後、記憶内容が変化したという。

 つまり、自分の記憶よりも、同じグループ、つまりある程度親しい他者に同調して記憶が変化したということである。

 そのような社会的同調について、科学者グループは、マスメディアなどを通じて広く行われる誤った政治プロバガンダや商品広告によって事実と異なる記憶を植えつけられたり、警察の取り調べにおいて、証言や自白が途中で変えられてしまう可能性があり、注意しなければならないという。
 しかし、社会的同調は、集団で生きている人間にとっては欠かせない適応でもある。

 と、いった内容である。

 まさにその通りである。人は、自分が思っているほど確固とした意見を持っているわけではないのだ。
 だから、意見は、一定の範囲で変動する。ぼくなどは、朝思ったことと、夕方思ったことが違うことがよくある。
 その日のうちに、いろんな新しい情報が脳にインプットされ、考え、人と会って話をしたりすることで、簡単に変わってしまう。

 先ごろ亡くなったアップルの創業者の一人スティーブ・ジョブスの言葉に次のようなものがある。

A lot of times, people don't know what they want until you show it to them.

(しばしば、人々は、自分が何を欲しがっているかは、物を見せられるまではわからない。)

 人は、自分が欲しいものが何かということは、実はわかっていないのである。物や情報に接して始めて、意見を表出し始める。その行為によって自分の意志・欲求があるかのように認識するのだが、それは、ある程度信頼できる人間からの情報によっていくらでも修正されてしまうのだ。

 みなさん、自分に自由意志や確固とした欲求があるなどと思わないでください。情報環境によって、そう思わされているだけなのです。

 しかし、だから諦めろというのではない。最新の注意を払って情報に接しなければならないということである。